東京渋谷を中心に小箱でのパーティーを賑やかし続けるアーティスト、蜻蛉-TONBO- が1stアルバム『TOKYO MAD CAVE』を完成させた。テクノやヒップホップなど傾倒する音楽の基盤を持ちつつも渋谷の雑踏感とディープな路地裏を彷彿とさせる多様な音楽性をいかんなく詰め込んだ渾身の作品。ここにたどり着いたきっかけや道筋を今作のレーベルでもあるpsymaticsのオーナーかつAbleton liveの認定トレーナーとしても知られるKoyas氏を含め話しを伺った。
蜻蛉 & Koyas Interview
—–今回は蜻蛉くんの1stアルバムのリリースという事で、今活動としてはDJだったり、LIVEだったりといった部分をメインに動いている感じですよね。
蜻蛉 : DJもしていますが、今はLIVE SETでやる事が多いですね。
—–そういった活動はいつ位からやっているんですか?
蜻蛉 : その前にはバンドでギターボーカルでやったりとか、DJもやったりはしていたんですけど、ソロでクラブでライブをやり出したのはここ5年位です。
—–その前にやっていたバンドっていうのはどういった感じだったんですか?
蜻蛉 : 結構勢いまかせのパンクだったり、ハードコアだったりみたいな感じです。
—–3コードで?
蜻蛉 : そうです。音楽を始めた時というのがとにかくステージで大きい声出すのが気持ちが良くて本当に暴れまわっていたんで、そういう初期衝動の音楽をずっとやっていました。その時から曲は僕が作っていたけど、自分で打ち込みをやってみようと思って二十歳位の時から曲を作り始めました。DJもやっていたので、その流れならAbletonかなと思ってやり始めた感じですね。
—–その頃はDJとかライブうんぬんというよりもトラックを作りたいって部分が先に来ていたんですね。
蜻蛉 : はい、トラックを作りたいっていうのが先にあったので、最初は1人でPCや機材を駆使したライブをやるのは考えてなかったです。でも人前でバコーンって大きい音を出すのは凄い好きだから、それがだんだん抑えきれなくなってライブとかも始めたって感じですね。
—–バンド活動からソロに以降して、ギターで弾き語りとかはやっていないんですか?
蜻蛉 : 弾き語りは今もたまにやっていて、歌うのが凄い好きなのでビートのライブの時もマイクを握ります。自分のトラックと声には結構エフェクトをかけているんですけど。
—–バンドの時にやっていた音楽をやり続けようという感じではなかったんですね。
蜻蛉 : そうですね。バンドの時にやっていた音楽はなんかずっとディグっていられないっていうか…演奏者としてバンドの一員でいたらまた違ったと思うんですけど。いざ曲を作るってなった時、DAWの便利さとか多機能さを知ってしまうとなんでも自分の思い描いたものができるから、曲を作るという部分をディグする方向に移行したのかなと思いますね。
—–そうするとやっぱりAbleton Liveとの出会いが今のスタイルを作っていったんですね。
蜻蛉 : それは間違いないです。たぶんあそこでCubaseを選んでいたら違う結果だったと思いますね。Ableton LiveとコントローラーのAKAI Professional APC40を繋げばすぐ誰でも動かせるんで、最初セットで買いました。それをずっと使い続けていて、今3台目なんですけど、それのおかげで今のスタイルはあると思いますね。
—–Koyasさんと蜻蛉くんの出会いっていうのもAbletonが関係しているんですか?
Koyas : 初めて会ったのは2013年のOff-Toneかなぁ?
蜻蛉 : ああ、そうですね!Off-Toneっていう野外のアンビエントパーティーにCD HATAさんとKoyasさんが出演した時です。HATAさんとはその前から自分がやっている蜻蛉祭っていうイベントに出て頂いて仲良くなったのがきっかけでした。そこでKoyasさんとは初めて会った感じですね。
—–蜻蛉祭っていうのはいつ位からやってるんですか?
蜻蛉 : 蜻蛉祭は7年前に東京出てきてすぐですね。地元は愛知県の豊川市です。
—–東京出て来たきっかけって何かあったんですか?
蜻蛉 : 地元でずっとDJイベントをやっていて、そこで東京月桃三味線っていう三味線弾きの友達がゲストで来た時に、「蜻蛉良い感じだから東京おいでよって、東京来て音楽やったら良いじゃん」って誘われて出てきました。
その時、一応大学出て新卒試験を受けて銀行でサラリーマンをやっていましたけど、あんまり面白くなくて。
—–たしかに面白そうなイメージはあまりないですね。
蜻蛉 : ただ、イベントとか音楽活動をするには意外と良かったんですよ。残業とかないし、土日も祝日も休みなんで、スケジュールは立てやすくて。まあでも、そんな理由じゃ仕事は続けられないですよね(笑)
—–まあ、そうですね(笑)
蜻蛉 : そこで東京月桃三味線と出会い、「人生は旅だ」みたいな感じで地元から出て来て、そこから彼に付いて色々周りました。その時は蜻蛉祭を高田馬場のLAMPってお店で始めて、そこからずっとやってますね。
—–最初は自らが出るというよりは完全にオーガナイザーとして企画していた感じだったんですね。
蜻蛉 : そうですね。でも実は蜻蛉祭に関しては今でも出演はしていなくて。
Koyas : マイクは一晩中握っているけどね(笑)
—–(笑)そうやってDJやったりしながらも常にマイクを離さないっていうのはその高田馬場の頃からですか?
蜻蛉 : そうですね。高田馬場でヒップホップのMCだとかスケーター達と遊んでいました。そういったストリートカルチャーに触れたのはこの時からですね。
—–Koyasさんのレーベルはいつ位からやっているんですか?
Koyas : 3年前です。
—–じゃあ、ちょうど2人が出会った位のタイミングですね。
Koyas : ちょうど、あの時にレーベル始める準備している感じでしたね。蜻蛉くんにはずっと「音源出しなよ出しなよ」って言っていて、そこから結局2年位かかりました。
—–ここ5年の活動の中で作り溜めていたわけではないんですね。
蜻蛉 : 基盤になっているのはLIVE SETのものなんですけど、だから普段は作り溜めるというよりそのLIVE SETの音源を抜いたり、付けたしたりしている感じなんですよね。
Koyas : あんまり一曲単位ではっきりしている訳じゃなくて、パーツがいっぱいあるっていう状態です。
蜻蛉 : なのでそのLIVE SETをそのままパッキングしたようなアルバムにしたいって話をしていたんですが、いざKoyasさん達と親密に関わっていく中でAbleton Meetup Tokyo(※)とかで色々なスキルとかを学んだ上で、さらにトラックメイキングの奥深さを知ったんで、このままで良いのかなと思いまして。
—–あのイベントは色々な人からスキルとかやり方を盗めますもんね。
蜻蛉 : そうなんですよ。それで1回レコーディングをしたんですけど、結局その素材をもらって曲単位にエディットしたのが今回のアルバムですね。
—–Koyasさんの方は蜻蛉くんが仕上げたものですんなりOKって感じだったんですか?
Koyas : 今回僕は録り/ミックス/マスタリングとがっつり関わっていて、僕はNG出すと言うよりは、曲順とかこの曲は音数が多いとかそういうアドバイスは出しました。
蜻蛉 : ミックスダウンの時に結構良いアドバイスをたくさんもらって。サンプル一個一個の処理が甘いとか。今はだいぶ綺麗になったと思うんですけど(笑)
Koyas : ループの継ぎ目がプチってるとかね(笑)
蜻蛉 : (笑)そうなんですよ、僕がその辺かなり雑に作ってたんで、その辺の指摘はもの凄く受けて、それによりさらに進化した蜻蛉がここにいますね(笑)
一同 : (笑)
※Ableton Meetup TOKYOとは
Koyasがオーガナイズしている、東京のAbleton Liveユーザーコミュニティー。「自分が得意とするLiveの使用方法」をプレゼンテーションするミートアップを隔月で開催しており、毎回アーティスト・エンジニア・DJ・VJなど幅広い分野のLiveユーザーが登壇している。
https://www.facebook.com/AbletonMeetupTokyo/
https://www.ableton.com/en/community/user-groups/ableton-meetup-tokyo/
—–今作に関して『渋谷の路地裏が似合う』っていう解説がありましたが、それはどういった辺りから感じる部分ですか?
Koyas : 全部同じスタイルのトラックという感じではなくて、雑多な感じがする所ですね。渋谷の街並みやクラブシーンと似ていて、そうした街の感性がアルバムに反映されていると思います。
—–たしかにざっくりジャンルわけはあってもその線引きみたいなのはごっちゃになっていますよね。
Koyas : ベルリンだとテクノが多いけど、渋谷だとテクノもEDMもヒップホップも実験的な音楽もあったりして色々やっていますよね。
蜻蛉 : レコーディングしたものをエディットしてる時に、自分が渋谷で一晩遊んでいる時の流れをアルバムに落とし込みたいと思いました。僕は今渋谷に住んでいて、道玄坂のRUBY ROOMっていう小箱で働いているし、色々な小箱にも遊びに行ってます。このアルバムは、そういった色々な所で色々な音楽を聴いている感じが一番際立っている所だなって思って、こういうコンセプトになった感じですね。
—–蜻蛉くんは今回1stアルバムという事で、Koyasさんはレーベルのオーナーという立場もある中でお伺いしたいのが、3年前にレーベルを立ち上げた時もそうだったと思うのですが、今さんざんCDが売れないって言われていて、実際売れるって言える状況ではないじゃないですか?
Koyas : 厳しい状況ですね。
—–それにも関わらずレーベルを立ち上げて1stアルバムをリリースするっていうのは何か意図や策略のようなものがあったりするのですか?
Koyas : レーベルとしては、売れない状況だからと言って待っていても何も起こらないので、何かアクションを起こさなければいけないだろうと。このご時世にCDも出しますが、レーベルとしてはまず作品をリリースするって事が大事で、CDも出すけど配信でも出すというスタンスです。CDはしばらくすると店頭にも並ばなくなるけど、配信なら後から蜻蛉くんに興味を持ってくれた人でも彼の音楽に触れられるので、まずそこが一番大事かなと。
—–興味を持ってくれた人に対して準備をしておかないとという事ですね。
Koyas : そうです。蜻蛉くんも若い世代に入るので、そういう人たちがどんな音楽をやっているのか、売れる売れないの前に出しておかないと日本の音楽シーンこれから先どうなっていくんだっていう危機感は感じています。
—–まずはクリエイティヴな部分でしっかり形にしておくというのが大事なんですね。
Koyas : そうですね。あと、今の時代ってアーティストが自分でレーベルを持ってリリースする流れになってきてるけど、日本語の生きた教材っていうのがあまりなくて、ネットもなんだかなあって情報ばっかり。だからこのレーベルはアーティストがDIYでリリースする実践の場として考えています。昔みたいにレーベルが全部お膳立てする形ではなく、一緒に作ることでアーティストがどうDIYでやっていくかっていうのを学んでいくみたいな。
蜻蛉 : 教育的レーベルですね(笑)
一同 : (笑)
—–「こういうやり方があるよ」っていうのをアーティストに伝えながらやっていくって事ですよね。CDひとつでもどういう経緯や経路でそこに並んでいるのか、どんだけの人が関わって、どれだけの金額がかかっているのか、そういうのを知ってるだけで色々違ってきますもんね。
蜻蛉 : だから今回の経験はほんと大きかったですね。勉強になってます。こういう風に店頭に並んでいる何千枚というCD達は世に送られているんだっていうのも解るんで、かなり面白かったですね。
Koyas : そうやって見るとみんな大変な思いしてるよね(笑)
—–ほんとそうですよね(笑)でもせっかく出すからにはちょっとでも売りたいっていう意識はあるんですよね?
蜻蛉 : 僕はありますね。こうやって頑張って作ったし、色々な人に手伝ってもらって、アートワークもそうだし、Koyasさんには色々な様々な大人たちへの対応などもしてもらっているので(笑)だから出すからには1枚でも多く売れて欲しいですね。
Koyas : たしかにそれはあるよね。でも僕の場合は、たくさんの人に届いて欲しいっていうのは前提にあるけど、売れる売れないだけで考えてしまうと、最終的にはEDMとかアイドルとかとやれば良いんじゃないのって思います。お金だけじゃないんだよって言いたい気持ちもありつつ、やっぱり制作費がペイできたら助かるしみたいな(笑)
蜻蛉 : そうですね。でも間違いなく自分のやりたい事、それにその時自分ができる事、サンプルが荒かったりはしましたが、一応僕のできる最大限を出し切ったものにはなっていますね。
—–そうですよね。作品としては自分がやりたい音楽を突き詰めて出すっていうのが大前提ですよね。
蜻蛉 : そうじゃないとアーティストとは言えない気がしちゃいますね。
—–自分達がリリースする場所がインディーズだとしても、活動の中でもう少しメインストリームというか、世の中的にメジャーなフィールドと関わっていく機会もあると思うんですけど、そういった部分との関わり方っていうのはどういう風に捉えてますか?
Koyas : そういう所の関わり方でいうと、広告とか商業音楽とかシノギでやる仕事っていうのがあるんですよね。そういうのをやるのはもちろん良いんですよ、家計も助かるし。でもその世界に染まってしまうと、今度自分がやりたい事を突き詰めた作品っていうのができなくなってしまうし、逆にそうなってしまうと商業音楽の方から声がかからなくなってきたりしちゃうんですよね。
—–切り分けてやりつつ、軸は変えないで拡げていけたらって感じですかね。
Koyas : そうですね。シノギはシノギで、そうじゃない所はそうじゃない所で、ある程度切り分けて考えてます。自分の作品もマーケティングとかを気にしちゃうと、結局なにがやりたいのか分からないまま終わっちゃうかなと。そういう意味でも売れる売れないは二の次か一の次位かな(笑)
蜻蛉 : そうですよね、一ではないですよね。
Koyas : うん、一にしちゃうと僕らインディーズがやる意味がなくなってしまうかなと。
—–その他、色々話がつきない部分もあるのですが、蜻蛉くんのリリース後の動きはどういった予定ですか?
蜻蛉 : リリースが1月25日で、リリースパーティーは2月10日にRUBY ROOMでやります。その後はまだこれからなんですけど、静岡とか地方の友達にも連絡をとっていて周れたら良いなとは思いますね。
—–まだ今作の事で頭がいっぱいかもしれないですけど、今後またリリース自体もコンスタントにしていけたらって感じですか?
蜻蛉 : 僕はまたすぐにでも出したくて、今もう作ってますね。
Koyas : 蜻蛉くんのリミックスEPも計画しています。
—–色々常に動きつつ展開していく感じですね。期待してます。
最後に締めになるのですが、その他で今後やっていきたい事とかそれぞれ何かありますか?
Koyas : 僕は今回のリリースとは少しかけ離れちゃうかも知れないんですけど、Ableton Meetup Tokyoに関わる人達とかをもうちょっと取り上げて世に出していきたいですね。
—–それはイベントにレギュラーで出ている人達って事ですか?
Koyas : レギュラーだけではなく出演者やお客さんもですね。ああいう場に来るような人って音楽を作ることに関心とスキルがあって、面白いことやっていたりするんですけど、あんまり表舞台に出ていない人が多いので、そういう人達をすくいあげていきたいです。
蜻蛉 : 僕はまだ結構今回のリリースの事しかわりと頭の中にない状況ではあるんですけど、これを皮切りにツアーだったり色々話がきています。そこで新しい繋がりが生まれそうな匂いはプンプンしているので、色々な場所に行って、色々な人に会って、また自分の世界をどんどん広げていけたらなと思いますね。
Photo by Jiroken
インタビュー場所:Space Orbit
東京都世田谷区太子堂5丁目28−9
http://bar-orbit.com
リリース情報
都内で精力的にパーティーを開催する蜻蛉が放つ、 小箱系クラブ・カルチャーを体現したファーストアルバム。2017年1月25日発売。
東京をベースにパーティーを精力的に開催している蜻蛉-Tonbo-が、自身初のアルバムとなる「Tokyo Mad Cave」をリリースする。
このアルバムは、東京の小箱でディープな一夜を表現するコンセプトで製作された。近年東京の小箱は、多様化した音楽シーンを象徴するかのように個性豊かな店が増え、RA等のwebメディアでも特集を組まれている。
このアルバムを制作した蜻蛉は、そうした小箱カルチャーとリンクするかのように様々なジャンルの音楽的バックボーンを持つ。
元々バンドでギターを弾いていたが、DJを始めるとデトロイトテクノやハウスをプレイし、その後周囲のスケーターやMCの影響でヒップホップのトラックメイキングを始めるようになった。
このアルバムには蜻蛉のそうしたバックボーンが反映され、ビートが四つ打ちの“Nerenai”や“Dead Asleep”はテクノの影響を感じさせながらも、自身のMCをフィーチャーした”Lights Out”や”Echo Patrol”はダビーなヒップホップの煙たさも感じさせる。
また、客演にLotus LandやSaratogaといったバンドのメンバーがドラムやディジェリドゥで参加。こうしたバンドもヒップホップもテクノも感じさせる蜻蛉のサウンドは、2010年代のストリート・カルチャーの空気感を切り取った作品と言えるだろう。
蜻蛉-TONBO-
『TOKYO MAD CAVE』
2017.01.25 Release
01. st.lullaby
02. Moonstep -Drums by Kengo from Lotus land-
03. Ghost Horn -Sax by KIDS-
04. Nerenai
05. Scramble Noise
06. Lights Out
07. Echo Patrol
08. Dead Asleep
09. Pele Pele -Didgeridoo by Tetsu from Saratoga-
PSYM-006 ¥2,100+tax
FORMAT : CD
LABEL : psymatics