THE QEMISTS
2014年7月27日(日) @ FUJI ROCK FESTIVAL ’14
3日目の苗場にいよいよ恵みの雨が降り出した。人間は無いものねだりをする生き物。さすがにあれだけカンカン照りな日が続けば雨が恋しくなるものであります。でもあまり降り過ぎないでね?なんてワガママな欲が出てくるのも人のエゴ。ちょうど雨具を着ようか着まいか悩むような、そんなしっとりとしたRED MARQUEEでOWEN PALLETTのライブは行われた。そう。ここは屋内。雨の心配は全く無いわけで、雨宿り目当てで訪れた人々や、元々ライブ目的で来た人々で結果的に会場内はたくさんのフジロッカーズで溢れていた。
さて話は少し変わりますが、フジロックの無数のラインナップから、限られた時間帯で一つのアーティストを選ぶのには色々な理由と要素があります。問答無用、大ファンであるアーティストを選ぶ事もあれば、経歴が面白そうなアーティスト、音源やYOUTUBEなどをチェックして気になったアーティスト。そして全くノーチェックでランダムに選ぶアーティスト。そう、それがこのOWEN PALLETTなのです。単純にこの時間帯に時間の余裕があったのと、オフィシャルHPのプロフィールが興味深かった点が合致して後はライブを観てどう思うか考えようと、完全無計画状態なわけですが、そういう時に限って真っ白な脳みそと五感に音楽が入ってくるので、現場で色々な感慨を受けるわけです。そしてこのOWEN PALLETTも同様、素晴らしいステージを僕達に披露してくれました。
更に恥ずかしい事にARCADE FIREのサポートでステージに立っていた事を当日知ったわけですが。。前日のARCADE FIREもしっかり取材していたので、自分の勘は冴えていたのだと自画自賛(笑)。当の本人はサポートメンバーを誰一人従わずステージど真ん中でバイオリンを構え男一人立ち。本当にどこにでも居そうな素朴な青年。彼はカナダ出身だそう。なんだか納得出来るそんな風貌の彼が弓を引いた瞬間物凄い鳥肌のようなゾクゾクする感覚が体を通り抜ける。美しすぎる音色。これまた前日のSteve Hillage(System 7) and 勝井祐二(ROVO)のバイオリンとは違った類の音色が湿った苗場の空気に響き渡る。空気を湿らせるこの雨のタイミングと、このバイオリンの音色。これまた絶好のシチュエーションに遭遇する事が出来た。
バイオリン?一人で?この後は一体どうなっていくんだろうという心配をよそに、彼はステージ上で自分の鳴らした音を録音しループを作り出し、その上に自らライブ演奏。リズムだって、バイオリンのボディーを叩いて低音を作り出しその上に音を重ねれば立派なトラックが成立。更にはシンセも弾き始め一人で出来る最大限の表現をその場でやってしまう器用さは見ていて少しも飽きなかった。中には数曲見て会場を離れる人達も見られたけど、正直それでいいと思う。こういう奏法をするアーティストを数曲だけでも見る機会って普段なかなか無いだろうし、大きなフェスは色々と”お試し”で見る事が出来る新しい音楽との出会いの場でもあるのだから。振り返ればこの2日間結構派手な電飾や、大勢のメンバーを従えたアーティストを見てきたので逆にこういうシンプルなアプローチがこの日の雨と重なって、心に響いたのは決して僕だけじゃなかったであろうと思う。
しかしやっぱり音楽はライブだよね~。音源を買わないならその分ライブに来れば良い。こうして、ああして、ああやって、こうやって。どのアーティストも試行錯誤しながらライブを楽しんでいるのである。ライブという現場でしか分かりえないこの空気感。もう最終日だっていうこの少しおセンチな気持ちだって、家では味わえない不思議な感情。そんな僕の心情にはピッタリのステージでした。
photo by kenji nishida