国内外からおよそ200組のアーティストが出演するフジロックにおいて独特の緊張感と雑踏感が漂うステージがある。1999年当時「NEW STAGE」という名前でスタートし、ルーキーの登竜門的ステージとして様々なアーティストを輩出してきた「ROOKIE A GO-GO」である。故ジョー・ストラマーの遺族と友人が設立した慈善団体「The Joe Strummer Foundation」がサポートし、昨今は入場ゲート前の無料エリア「THE PALACE OF WONDER」に隣接し若干の傾斜も見られる決して優れた環境ではない中でしのぎを削る深夜のドラマ。
2011年からは投票や活動実績を考慮し、翌年のメインステージの出場権を獲得できる場としても確立され皆がチャンスを虎視眈々と狙う戦いも熾烈を極めている。これまで見事その枠で出場権を獲得したのが、CHAI(2017)、MONO NO AWARE(2016)、SABANNAMAN(2015)、Manic Sheep(2014)、溺れたエビの検死報告書(2013)、STERUSS(2012)、cero(2011)なのだが、そこから外れたとしてもシーンにおいて重要な存在感を際立たせる数多くのアーティストがこの場をステップに駆け上がっている。
【ROOKIE A GO GO 出演アーティスト:一部抜粋】
2017年:CHAI、King Gnu
2016年:MONO NO AWARE、Nao Kawamura、yahyel
2015年:SABANNAMAN 、D.A.N.
2014年:Manic Sheep、odol、Creepy Nuts、Suchmos、YOGEE NEW WAVES
2013年:溺れたエビの検死報告書、My Hair is Bad、Bacho、Homecomings、ミツメ、MONSTER大陸
2012年:STERUSS、思い出野郎Aチーム、ヤセイコレクティブ
2011年:cero、SiM
2010年:女王蜂、HEY-SMITH、アラゲホンジ、踊ってばかりの国
2009年:打首獄門同好会、JariBu Afrobeat Arkestra、撃鉄
2008年:OLEDICKFOGGY
2007年:THE BAWDIES、KINGDOM☆AFROCKS、サイプレス上野とロベルト吉野、a flood of circle、group_inou
2006年:ザ50回転ズ、ズクナシ
2005年:The Cherry Coke$、QUATTRO
2004年:SAKEROCK、アナログフィッシュ、髭
2003年:ASIAN KUNG-FU GENERATION、サンボマスター
2002年:Spinna B-ill & The Cavemans、ART-SCHOOL、DOPING PANDA
2001年:monoral、babamania
1999年:くるり、THE BACK HORN、MAD3
この歴史あるステージに今年も1300を超える応募から選ばれた15組のアーティストがラインナップ。
突然少年、東郷清丸、paionia、底なしのバケツのようにざらざら、東京塩麹、裸体、1inamillion、ANYO、RiL、THE RODEOS、GLARE SOUNDS PROJECTION、NOT WONK、いーはとーゔ、阿佐ヶ谷ロマンティクス、Manhole New World
今回ここに出演したすべてのライブを観たわけではないが、他のステージにはない緊張感と気合、人間模様や可能性を垣間見ることができた。これまでフジロックには何回も来ているが、実は昨今の「ROOKIE A GO-GO」には若干の苦手意識があり、あまり近づかないようにしていた。その原因のほとんどはサウンドチェック時の他との音被りと、斜めに傾斜したフロアなのだが、やはり食わず嫌いは良くなかった。今回改めて視野を広げて覗いてみると絶対的な良環境ではないからこその様々な発見や魅力がそこにはあった。
初日に登場した、福島出身スリーピース編成『paionia』
フォーキーかつロックなサウンドプロダクションで憤り、憧れ、情景、そして父への想いやセンチメンタルな心情などこれまでに刻まれてきた心模様を打ち鳴らした。(PAIONIA @ FUJI ROCK FESTIVAL ’18 フォトレポート)
変幻自在なリズムコントロールを見せた『東京塩麹』
自らで「自分達はロックではない」と言い放ってしまう潔さは、自分たちがやるべきことを解かっている心の現れなのかも知れない。パッションと様々な交わりを連想させる展開に、引き算と掛け算と因数分解ができる人力バンドで、ラスト2曲には女性シンガーをゲストボーカルに招きミニマルサウンドを披露した。(東京塩麹 @ FUJI ROCK FESTIVAL ’18 フォトレポート)
2日目の「ROOKIE A GO GO」は暴風雨との果し合いのような形相を見せていた。隣で開催予定だったコロンビアのサーカス一家『MARTINEZ FAMILY WITH JOSSELIO』のパフォーマンスは中止となり通常のこのエリアの雰囲気、人の流れなどはまた少し違うものになっていた。
そんな中、一際雨が強い時間帯に登場した『ANYO』
活動12年ともはやルーキーの定義がわからなくなりそうな気もするが、その個性や色めきに、時折雨は静まるも、横に吹き流れる風は強さを増す。寄り添わない音楽と自負する中で、これまでの活動への感謝。ここに立てる感謝。そして陶酔という境地からラストにはダンスミュージックを轟かせた。(ANYO @ FUJI ROCK FESTIVAL ’18 フォトレポート)
東京町田出身の2ピースロックバンド『RiL』
「やっとここに立てた。かかってこいよ」と叫ぶと共にその勢いと高いパフォーマンスに会場の熱量は一際高いものになった。グランジがもつ気だるさと激しさに初期衝動と自らの解釈が入り混じり、ロックというものが持つ力や姿勢を大いに見ることができた。(RiL @ FUJI ROCK FESTIVAL ’18 フォトレポート)
突き抜ける躍動感とケルト音楽からの昇華『THE RODEOS』
今回の出演アーティストの中でも完成度の高さは随一、時折強くなる雨に増すパーティー感も圧巻のステージ。楽しさを喰らわせつつも情熱をたぎらせる熱量で多くの者を虜にした。(THE RODEOS @ FUJI ROCK FESTIVAL ’18 フォトレポート)
3日目に入ると帰宅前のひと時を過ごすフジロッカーも多くこのエリアには姿を見せる。
鹿児島を拠点に活動する『GLARE SOUNDS PROJECTION』
ソロプロジェクトながら多くのサポートを受けて、しっとりとした形相とソリッドな面持ちでオルタナティヴサウンドを奏でた。(GLARE SOUNDS PROJECTION @ FUJI ROCK FESTIVAL ’18 フォトレポート)
ルーキーと言えども年齢も出身もキャリアにも違いがあって、本来音楽に勝ち負けがあるわけではないが、皆一様に勝負をしにきているし、全力で楽しみに来ている感じが見て取れた。その勝負という点では、翌年の出演権がかかっている部分でメンタルとして勝負を意識する面が過去よりも色濃くなってきている雰囲気はあるが、それは音楽自体の勝ち負けではなく、ここでの勝ち負けはおそらく運をも含めた総合力。特に第一次投票においては3日間の天候やタイムテーブルなども大きく作用されるわけで、実際のライブの良し悪しとは必ずしも一致するわけではないという印象も受けた。それ故に例えから回ろうが、ふわっと乗り切ろうが、多いにアピールする事に成功しようが、日々の思考、時間の使い方なども含めた総合力が最後にはものを言うのではないかと思う。そして一様に見られたフジロックに対するリスペクトと憧れ、さらにここからのし上がっていくという野望を滲ませながらも出演者やバンドスタッフがこの日に注いだエネルギーは何物にも代えられない経験となると思う。
初期衝動と才能の発見、アーティストへの道しるべのひとつとして築いてきた歴史あるステージ「ROOKIE A GO GO」
世の中にバンドやミュージシャンが数多くいる中で、ここに立てる実力と幸運を持つ選ばれし者たちが奏でるストーリー。
この場所で音が掻き鳴らされた時、新たな時代が幕を開ける。
『FRF’19出演権獲得! 目指すはメインステージ!』
※ 第1次+第2次投票の合計得票数 + この先1年間の活躍 + フジロック事務局の厳選なる審査 ⇒ 出演アーティストを選出
第1次投票結果
突然少年(72票)
東郷清丸(72票)
NOT WONK(69票)
THE RODEOS(59票)
裸体(54票)
RiL(33票)
阿佐ヶ谷ロマンティクス(32票)
paionia(31票)
1inamillion(25票)
いーはとーゔ(15票)
Manhole New World(14票)
東京塩麹(8票)
GLARE SOUNDS PROJECTION(7票)
底なしのバケツのようにざらざら(7票)
ANYO(6票)
第2次投票受付
WEB投票:来年2019年3月上旬頃から、フジロックオフィシャルサイトよりWEB投票にて受付開始予定FUJI ROCK FESTIVAL オフィシャルサイト
http://www.fujirockfestival.com/
photo by kenji nishida