ゴーストタウン in DOEL(ドエル)、ベルギー
世界中にはゴーストタウンと呼ばれる廃墟地帯がある。何もかも放棄したかのようにスーッと人々がその界隈から消え、微かな精気を残し建物だけが建ち並ぶ。普段の生活から一転して突如こういう場所を訪れると、異様なアドレナリンが分泌され、非現実的な世界と現実的な世界の狭間の空間にいるような感覚に陥る。
今回訪れたゴーストタウンがあるベルギーのドエルは、ベルギーの第2の都市アントワープから高速道路で車を20分程走らせ、港の倉庫地帯を抜け、モクモクと煙を出す原子力発電所の手前の港湾地帯にある。約700年にも渡る歴史があり、70年初頭には1300もの人口を持ったこの街はやがて2007年頃には350人程度に減少、今では数世帯が住んでいるだけで実際には完全なるゴーストタウンではないようである。こんな閑散とした中で人が住んでいる辺りがまた、このエリアの異様な空気感を引き立てます。
とある地元の人に聞いたところ、人々がこの街を去った理由に、アントワープ港湾開発があるようです。と同時に、原子力発電所の影響もあるのかなと言う話でしたがそれは確かではありません。ただ、この街には原子力発電所や港で働く人々が住んでいた事は確かで、結果的にそこに住む人々は、国によって追い払われる運命を辿ったようです。人口50万人もの人々が住むアントワープの街の直ぐ隣に位置し、距離にして20~30キロといった近さ。2015年には原子炉が爆発し、火災が発生したという話も聞いています。どことなくどこかの国に近いような。。。そんな気持ちになりながらこの廃墟を徘徊してみました。
さて、今回は世界廃墟巡りを決行すべくこの土地に足を踏み入れたわけではありません。人々が建物を残しこの街を離れてから、ここドエルにはたくさんのアーティストが集まりグラフィティーなどの絵を描くようになったようです。街の中には、まだ人々が訪れているであろう協会や墓地などがありながらも、ほとんどの建物は抜け殻状態。その建物の中や外壁や玄関などに、ペインター達が描き残した色彩豊かな絵をあらゆる所で見る事が出来ます。当然描き慣れたプロレベルの作品もあれば、まだまだ練習段階の作品もあって、絵の種類も多種多様。でも、正直言ってそういうクオリティーの問題というよりは、瞬間移動したように人々がいなくなったこの廃墟地帯がこれらの絵によってほぼ埋め尽くされてしまっているというショッキングな光景が多くのアーティストを引き寄せる理由なのだと思います。
2ブロック~3ブロック程のこの住居地帯を歩いていると、突然車のウィンドーが開いて一人の白人男性が話しかけてきました。『この辺りで2人組みの黒人を見なかった?』と。『知らない』というと、『なんだか怪しい動きをしてて危険そうな2人組がいるから気をつけて』とだけ言って去っていきました。実際、何台か車が走り去るのは見かけたけどこのエリアで出会った人は彼一人。確かにこれだけ人がいないと物騒ではある。実際、建物の窓ガラスには銃弾の跡がいくつかあったし、焚き火の跡があったりと、治安が必ずしも良いというわけでは無さそう。ディズニーランド気分で来る様な場所では無いようです。その直後、その黒人と思われる2人組みが、道を蛇行しながら正面から歩いて来るのが見えたので、直ちにその場を去りました。もし行かれる機会がある方は、それなりの注意はしてくださいね。
ベルギーやオランダの高速道路や外壁などには、こういったグラフィティーアートが多々見られます。どこからともなくアーティストがやってきて、足跡を残す。現代風のそのアートと、何百年という歴史のある建物のコントラストが人々の生活に溶け込んでいました。