Profile of |FUJI ROCK FESTIVAL|
Bjork
2013年7月27日(土) @ FUJI ROCK FESTIVAL ’13
今回2日目のトリを勤めたのはアイルランドの歌姫”Bjork”。きっとこの3日間で最も多くの人々がこのグリーンステージに集結したのでは無いだろうかっていう位四方八方からグリーンステージへと続く道の人の流れのベクトルが同方向に向かっていた様に思える。昼から降っていた雨も見事に止み、むしろ雨が降った後のこの山の独特な空気を物凄く心地良く感じていると(個人的には晴れでは無く霧雨位の天気で見たかった)予定時間より少し早めにShowがスタート。
ステージ上手にはプログラマー下手は電子ドラム。どまん真ん中にパイプオルガンの様なセット。至ってシンプルなステージにコーラス・パフォーマー達が彼女の脳内細胞を一つ一つを表現しているかの様に信じられない位純粋で信じられない位情熱的な声で歌い、そして体を揺らす。Bjorkの体の一部かの様に。
静かに始まった一曲目、最新アルバム”Biophilia”からの”Cosmogony”の後にはおなじみの”Hunter”。生で歌うアナログなコーラス隊と生演奏するデジタルなドラムとのバランスが神秘的で怖い位に美しかった。こういう活動歴の長いアーティストは旧新作からの選曲のバランス次第ではShowが物凄く退屈になってくる事がある。やはり昔からのファンは、旧曲をどれだけ演奏してくれるかに期待をしていると思うし、もちろん新し目の曲もどう印象付けられるかはアーティストの見せ方次第。Bjrokに至っては、そのバランスが絶妙で例えあまり馴染みの無い曲が流れたとしても、彼女には視覚でオーディエンスを退屈させない術がある。
再び最新アルバムからの”Crystalline”ではそれまで淡々とゆっくりと流れていたShowが一気に動き出した。後半部分の低音の乱れ打ちに合わせてコーラス隊が線香花火の細かな光の様にパチパチと弾けだし、これまで全体的に低音が少なかったせいもあってこの低音が体中を震動させ金縛りにあったかの様な衝撃が走った。きっとこの低音の使うタイミングなども全て計算された上での曲順と音作りであったのだろう。もう完全に彼女の魔力に縛られここから離れる事が出来なくなってしまっている自分がいた。全てが完璧で、全てが異次元。圧倒的に核と次元が違い過ぎるのだ。
彼女の表現する音は毎曲毎曲踊れたり騒いだり出来るわけではないし、むしろ体が動くと言うよりは、体内のアドレナリンが騒ぎ出して体が固まったまま細胞の一つ一つが反応している様なドラッグに近い現象が起こる。そして全ての神経と五感がステージに奪われていると突然”Army of Me”の様に縛りを一気に解放させてくれる瞬間が訪れる。これこそ虜になるっていう表現が正にピッタリなわけだけど、全ての身をこの歌姫に委ねていると感じる瞬間なのである。そして全ての人が待っていたであろう”Hyperballad”からの流れで始まった”Pluto”で完全に五感が破裂し、音の縛りから解き放たれる心地良さを体感した。
彼女がShowの中で声を発したのがほぼ各曲後に発した日本語で『アリガトウ』(これもどう表現していいか分からないが、妙にBjorkって頷ける発音で可愛らしかった)と『ディーエヌエー』。この彼女の体内脳内DNAを表現したものが彼女のShowそのもので、さっき計算されてるなんて言ったがもしかしたら全て彼女のDNAが発する自己満足なだけなのかもしれない。むしろ同調を求めない表現者だからこそ、それが完全に同調した瞬間と同調した者だけが彼女のDNAの一部となる事が出来るのであろう。
どんな生活をしてどんな音楽を聞いたらこういう発想と表現が出来るのだろうか。真っ暗闇に浮かぶ万華鏡の様な、たくさんの要素が瞬間瞬間に詰まった歌姫の初体験は音楽というカテゴリーをも超越した他では決して見ることが出来ない唯一無我な作品でした。これが真のアーティストなんですよ。いつまでも彼女の歌声を聞いていたいと思いながら後ろ髪を引かれる様な気持ちでグリーンステージを後にしたのである。
photo by kenji kubo